当研究グループでは、核スピンを手がかりに原子核の構造の解明に取り組んでいる。 2005年度後期より小田原厚子助教授がメンバーに加わり、高速回転している原子核の構造をガンマ線を通じて調べるという新しい実験を開始した。

各研究テーマに関する活動概要は以下の通り。



1.安定領域から遠く離れた核の励起状態の構造

スピンの向きが特定の方向を向いた(偏極した)不安定な原子核を人工的に生成し、そのベータ崩壊の非等方性を通じて娘核の励起状態のスピン・パリティを決定するという独自の実験を2000年に提案し、カナダのバンクーバー市にある素粒子原子核研究所 TRIUMF において準備を進めてきた。2001年には、極めて短寿命の原子核11Li をレーザー光ポンピング法を用いて55% に偏極させることに成功した(世界最高)。2002年と2004年には、偏極した11Li のβ遅発中性子崩壊・γ崩壊を測定することができた。その結果、娘核11Be の励起状態のうち、未知の7つのスピン・パリティを初めて決定することができた。2005年度 にこの成果を論文として公表した(Y. Hirayama et al., Physics Letters, B611 (2005) 239)。また、低エネルギー中性子のデータ解析を行った。中性子 輸送モンテカルロ計算に取り組み、中性子が検出器に到達する以前の散乱の効果 を詳細に評価することに成功した。

図1 TRIUMF における実験装置


2.超流動ヘリウム中のレーザー分光

超流動ヘリウムを不純物原子核のスピンに擾乱を与えないホストとして利用出来 ないだろうかというアイデアは、当研究グループが長年あたためてきたものであ る。特に、ヘリウム中の中性原子の吸収光スペクトルが真空中に比べて大きく広 がることは注目に値する。この性質を利用すれば、事実上アルカリ元素に限られ てきたレーザー光ポンピングを広範な核種に対して適用でき、レーザー分光法に よる超微細構造の測定を通じて、核の電磁気モーメントを極めて高い効率で測定 することにつながる。2005年度には液体ヘリウム中のCs 原子に対するレーザー 光ポンピングに成功し、液体ヘリウム中でのスピン偏極の緩和時間の測定を世界 にさきがけて行った。2.24±0.19秒という極めて長い緩和時間は、固体ヘリウム 中のそれより長く、液体ヘリウムと不純物原子間の相互作用に重要な知見をもた らすものとして高く評価された(T. Furukawa et al., Phys. Rev. Lett. 96 (2006) 095301)。引き続き、超流動ヘリウム中でのマイクロ波二重共鳴法によっ て核のモーメントを測定できることを実証する実験に取り組んでいる。



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